ここ最近、公共マナーを喚起した広告が目立つ。公の場での迷惑行為を風刺するこれらの作品は、マナーに無関心な人の態度を改善する効果があるらしい▼この中でも、公共広告機構による「江戸しぐさ」のキャンペーンCMは斬新だった。こぶし腰浮かせ、往来しぐさといった、公共機関を利用する際の心ばかりのマナー。そこには、公共物を大切にするという粋な計らいが確かに存在した。江戸の町には、我々が忘れかけていた相互扶助の精神が息づいていたようだ▼では、現代に生きる私たちに「江戸しぐさ」の心は受け継がれているのか。自己の日常に忙殺され、江戸っ子のようなマナーを守る思慮を失ってはいないだろうか。そしてそれが、結果的に公共での「心を亡くす」行動を招くのかもしれない。初めて居合わせた人への「江戸しぐさ」の意識は消えつつある。公共マナーを啓発せねばならない背景には、迷惑を省みない現代人の心の貧しさが色濃く反映されている▼相手へ気配りのできる人は輝いて見えるもの。「あなたのこころがきれいだからなんでもきれいに見えるんだなあ」とは、相田みつをの書の一節だ。その言葉は、まさに江戸っ子の心意気を体現している。いにしえから伝わる粋なマナーを鑑みて、私も周りへの思いやりのある所作を心掛けたい。(飛)