心の知性EQとは

 長年、人間の知能指数を示す言葉として使用されてきたのは、数学と言語の能力を数値化した「IQ」であった。その数値が高い人物は、理知的で優秀だと考えられてきたのだ。しかし今日では、IQのみで人間の能力を評価することに対して疑問の声が上がっている。つまり、IQとはまた別の、もっと大切な「知性」が人間にはあるのではないか、というのだ。
 そこで近年、注目されるようになったのが「EQ」と呼ばれる知性の存在である。EQの正式名称はEmotional-Intelligence-Quotient。直訳すると「心の知能指数」となる。EQ理論はイェール大学のサロベイ博士とニューハンプシャー大学のメイヤー博士によって、1989年に初めて発表された。その後、理論の体系化が進められ、世界中に広まったのである。
 それでは、EQとは具体的にどのような能力なのだろうか。例えば、飲み会の席で偶然再会した高校時代の友人から、彼の母親が亡くなったことを聞かされたとする。するとあなたは、はしゃいでいた気持ちを抑え、神妙な顔でお悔やみの言葉を言い、慰めるだろう。この時、実はEQの能力が発揮されているのだ。
 要するにEQとは、まず自分の感情(例では、楽しくはしゃいだ気持ち)を客観的に捉える能力である。そして、その感情が周囲に与える影響を把握し、自分が置かれた場の状況に適した感情(神妙な気持ち)を判断して切り替えられる能力でもある。また同時に、他人の感情に対して臨機応変に対応できること(母を亡くした友人への気遣い)も、EQの能力の1つなのだ。このような点から、EQに優れた人は感情表現が適切で、人間関係を円滑に処理できるとされている。
 そのうえ、社会的な成功の鍵はEQとⅠQの協調関係にあるという。どんなに頭が良くても、その能力を十分に発揮するには、家族や仲間の支えと理解が必要になる。そのような円満な人間関係の土台がなければ、満足な結果は得られないのである。すなわちEQとは、IQなどの本来自分が持っている能力を、最大限に生かす手助けをする知性でもある。また、EQは訓練すれば、年齢に関係なく向上するという。
 以上のことを踏まえ、近ごろ日本でも、企業が人材育成のためにEQを導入し始めている。さらに、学校教育や介護、医療の現場など様々な場面でもEQの活躍が期待されているのだ。
 EQは人間関係の問題を解決する力となる。そして、それを知ることは新たな可能性の発見にもつながるだろう。(賀来潤恵)