タバコの老舗JTに聞く

 これまで見てきたように、禁煙化への流れが加速している現在、人口全体の喫煙者数の割合は着実に減少している。そうした時代において、たばこを売る側は一体どのような立場をとっているのだろうか。JT(日本たばこ産業株式会社)IR広報部の松澤善史課長にお話を伺った。
 商業的な側面からたばこを見た場合、必然的に1箱あたりの値段に占める税金の割合について考えざるを得ない。それに関して松澤さんはこう語る。「たばこ税の中には、例えばたばこ特別税というものが含まれています。これは、旧国鉄(現JR)が昔鉄道を整備した際に発生した債務の支払いに充てられており、現在たばこを吸う人は、その返済を肩代わりしているということになるのです。つまり、鉄道の通っていない地域に住む人であっても、たばこを買った場合には、利用していなかった鉄道に対して納税で貢献しているのです」。私たちが何気なく生活の中で使っているものも、たばこの税金によって賄われていることがある。たばこ税は国家財政の大切な支えのひとつなのだ。
 だが、そのような点を考慮したとしても、非喫煙者にとってたばこの煙は迷惑なものである。また、実際にぜん息などを患っている人にとっては命にも関わりかねない問題だ。そのため、受動喫煙への対策として、JTは分煙化の推進にも積極的に携わっている。「私たちは、喫煙者と非喫煙者のお互いが納得し合えるような空間づくりを推奨しています。分煙を徹底することで、喫煙者の権利も非喫煙者の環境も同時に守っていくことが、今後は大事になっていくと思います」。あくまでも両者の共生という立場から、禁煙ではなく分煙という方向への見通しを立てているという。「JT社内には、分煙コンサルティングの部署を設けています。この部署では、例えばある団体が建物を建てる際に、その中でたばこを吸った場合の煙の流れなどを分析し、その結果に応じた分煙方法を具体的に提案しています。こうした活動を通じて、分煙化を推し進めているのです」。
 しかし、このような建物の分煙化以前の問題として、まず第一に考えられていくべきことは、喫煙者自体のマナーであると松澤さんは言う。「喫煙者には、たばこを吸う権利と共にマナーを守る義務があります。歩きたばこなどの喫煙者による迷惑行為が、人々の間にさらなる嫌煙の風潮を広げかねません。その結果として、吸う立場の人間の市民権が失われていってしまいます。だからこそ喫煙者は、きちんとマナーを守っていかなければならないのです」。喫煙者の振る舞い次第で、非喫煙者のたばこへの見方は変わっていってしまう。そのためJTは、配信する広告の中でも喫煙者に対してのマナー改善を呼びかけている。『ケータイ灰皿は、どんな場所でも吸っていい許可証じゃない。』というような、喫煙者には少々耳の痛いコピーによって、彼らに喫煙マナーについての自覚を強く促しているのだ。
 そして、話の終わりに松澤さんはこう締めくくった。「たばこは人類の歴史ある文化とも言えます。非喫煙者も、マナーを守っている喫煙者に対しては、広い心で受け入れてあげて欲しいです」。嗜好品として、たばこを選んだ立場とそうではない立場。両者の快適な共生という展望を、私たちはこれから考えていってもいいのではないだろうか。(阿部遙)