電車屋赤城 無骨な男たちの生き様

 元鉄道職員という経歴を持つ著者が描くのは、電車に命をかけた男たちの物語。彼らの熱き心には、多くの読者がぐいぐいと引き込まれることだろう。
 車両整備を受け持つ、神奈川電鉄横須賀工場、通称「スカコウ」を舞台に繰り広げられる本作。引きこもりの青年、田宮純一が自らを変えるべく、叔父が経営するスカコウの下請け会社でアルバイトをすることから物語は展開する。純一がそこで出会ったのが、元スカコウの従業員である赤城。彼の整備の腕は超一流だ。ただ、無口で無愛想な性格なため、赤城は誤解を受けやすく、敵も多い。そのため、始めは純一も赤城にさほど興味を示さなかった。しかし、純一は不器用ながらも、自分を信じてくれる赤城の優しさに徐々に気づいていく。また、様々な過去を背負う仲間と触れ合う中で、純一は少しずつだが自信を持ち始める。その姿に引きこもっていた頃の彼の面影はなく、実に生き生きとした青年へと成長を遂げている。折しも、スカコウの古株の従業員は、不況の煽りを受け次々と解雇されていく。そんな中、大規模な地震により、脱線事故が発生した…。
 本書に登場する人物には何でもできる、いわゆるスターは登場しない。皆生き方は不器用だが、まっすぐな人間が描かれている。だからこそ読者は登場人物に惹かれ、感情移入もしやすいのだろう。また、各章ごとにスポットを当てる人物を変えているため、各々の人物の関係性や人物像が理解しやすく、非常に読みやすい構成となっている。 
さて、本書のどの章でも中心的な役割を担っているのが赤城だ。周りにいる者は、皆彼を慕っている。多くを語らずとも通じ合える彼らに、真の友情とは何かと考えさせられた。(枡)(山田深夜著 角川書店 税込1890円 2007年刊)