「外交の新しい潮流を探る」法学部政治学科高島肇久特別客員教授

 今回は、政治学科の高島肇久特別客員教授です。先生はマスコミ論、国際関係論、日本外交と幅広く研究なさっています。中でも、それぞれを結びつけるキーワード「パブリック・ディプロマシー」についてお話を伺いました。(取材・構成 今村隆介)
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市民が動かす外交
 NHKで放送記者を37年間務め、定年退職後は国連広報センター所長、外務省外務報道官と国際政治の舞台で活躍した先生。長年の経験を通じて、外交問題を考える上でのパブリック・ディプロマシーの重要性を強く認識したという。
パブリック・ディプロマシーは、広報外交、対市民外交などと訳されます。今日、外交官同士が話し合っても解決しない問題が多々あります。しかし、相手国の市民が自国の考えを理解してくれれば、相手国の政府も譲歩するかもしれません。そのために様々なチャンネルを通じて相手国の市民へ働きかけ、自国のイメージを向上させようとする試みが、パブリック・ディプロマシーなのです」
 民主主義である以上、市民の感情はその国の外交姿勢に少なからず影響する。こうした考えを基にした外交戦略は現在、世界の潮流となりつつあるのだ。例えばアメリ国務省は、イスラム世界におけるアメリカのイメージを高めるための政策に大きく時間を割くようになっている。
「もちろん、それによってすぐにアメリカに対するイメージが改善されるわけではありません。イラク戦争などによる悪い印象は、そう簡単に払拭されるものではないのです。ですが、普段から少しずつイメージを向上させていくことが、長期的には大切だと言えます。パブリック・ディプロマシーは特効薬というより、漢方薬のような存在なのです」
日本外交の課題
 かたや日本も、解決すべき外交問題が山積みとなっている状況だ。では、そんな日本に求められるパブリック・ディプロマシーとは何か。先生は、日本は世界と比べてもマスメディアの使い方が上手ではないと指摘する。
「当然のことながら、外国の特派員の報道姿勢はわが国のイメージに大きく影響します。ですから、政府は何を主張したいのかを明確にし、特派員へどのように情報を提供していくか検討を重ねる必要があるでしょう」
 また、市民レベルでの文化交流も外交関係の要である。その点において、日本独自のポップカルチャーが外交での大きな武器となるそうだ。
「日本のコミックや音楽、ファッションなどは『第2のジャポニズム』と呼ばれています。こういった文化は世界から注目を集めているのです。特に若者世代に対しては、日本のブランドイメージを押し上げる強力な外交手段になるでしょう」
 ジャポニズムとは、19世紀中頃に日本文化が西欧美術に与えた影響のことである。同じように、日本的価値観の世界への伝播が現代でも起こりつつある。これを文化外交として一層前面に出していくべきという考えなのだ。
研究の更なる発展へ
 だが、パブリック・ディプロマシーの研究で日本は立ち遅れているという。現在も外務省参与という立場から外交に携わる先生にとって、日本外交の閉塞感を打ち破るためにもこの課題に取り組まなければならないのだ。
「研究はまだ始まったばかりです。なので、まずはパブリック・ディプロマシーが外交という枠のどこに位置し、どの程度の大きさなのかを把握したいと思います。また、市民が外交の場において今担っている役割を調べ、これからは何を担うことができるか、その全体像を掴みたいです。まだまとめられる段階には来ていませんが、様々な方面から探ることで最終的には理論を体系化させたいと考えています」
 マスメディアと政治、双方の立場を経験した先生だからこそできる分析がある。学問としての研究に留まらず、実践的な外交理論を構築し、国際関係を円満にしたいという熱意。その想いは、今後どう実を結ぶのだろうか。
 PROFILE
高島肇久(たかしま・はつひさ)
 1963年本学政経学部卒業。同年、NHK入局。2006年より本学で教鞭を執る。現在、外務省参与と国際連合大学学長特別顧問も兼務している。