[私の回顧録から]学ぶ喜びを見つけて 文学部史学科家永遵嗣教授

今回は、史学科の家永遵嗣教授に学生時代を振り返っていただきました。先生は一体どのような日々を送っていたのでしょうか。
やり残したという印象
 恥ずかしい話ですが、私はあまり出来の良い学生ではありませんでした。もちろん勉強はやっていましたが、昼夜が完璧に逆転していたのです。昼に学校で論文をコピーして、夜に家でそれを読むという毎日の繰り返しでした。4年間の締めくくりの卒論も、努力はしたがやり残したことがある、という印象のまま提出しましたね。以前から興味を持っていた応仁の乱を扱ったのですが、史料や研究論文を読めば読むほどすでに調べ尽くされいる気がしました。だから、独自の新しい考えを創りだすまでには至らなかったのです。
今の自分につながる経験
 卒業後、石油会社に就職しました。その時に実感したのが、生活習慣の大切さですね。人間、一番力が発揮できるのは、生活のサイクルがしっかりしている時なのです。そしてそこで1年半勤めている間に、卒論で取り上げ残した内容について、ある見通しをもつようになりました。それは応仁の乱の起こった背景事情で、京都の情勢と関東のそれとの間に密接な関係があったらしいということに気づいたのです。これに関してはどなたも追究されておらず、まさに「ここ掘れワンワン」状態で、宝を探り当てたような喜びがありました。その見通しを確認するため、会社を辞めて大学院に入ることを決めました。周囲は驚きましたが、自分には発見したものが本物だという手ごたえがあったのです。
 それから大学院に入るまでの2年ほどの間が、本当に勉強した時期だと思います。何より、未知の真実がみえてくる感動がありました。やはり学んでいくうえで大事なのは、自分にとって感動できるものを見つけることでしょう。(取材・構成 市川美奈子)
 PROFILE
1982年東京大学文学部史学科卒業、共同石油株式会社就職。83年同社退職。94年東京大学大学院博士課程修了。99年より本学の助教授を経て、06年より現職。