[研究最前線]「比較を通じた政治分析」 因果関係をひも解く 法学部政治学科磯崎典世教授

 今回は、政治学科の磯崎典世教授です。先生は、比較政治という方法で現代韓国政治を研究されています。今回は現在研究されている比較政治について、お話を伺いました。
    (取材・構成 田上ひかり)
大学生活と韓国
 先生が大学生活を送っていた1980年代、韓国では大規模な民主化運動が巻き起こっていた。このように、自分が暮らす社会とは違う韓国に先生は関心を抱いていったそうだ。
「一体韓国で何が起こっているのか。民主化とは言うけれど、誰が何を要求し、どんなことが実現されようとしているのかということに、興味を持つようになりました。大学院では、多角的な視点から研究を進められるよう、総合文化研究科に進学し、韓国政治を研究しました。そして、より普遍的な政治現象を理解するために、比較と言う方法を学んだんです」
政治の比較
政治という分野を考察する際、各時代や国において似たような政治的状況が存在することがしばしばある。だが、状況や過程が同じだからといって、その物事の最終的な結果まで同一になるとは限らない。そうした場合、異なった結果が出るのはなぜなのか。その根本的な理由を検証するのが、比較政治の何たるかだと先生は言う。
「非常に似た2つの事例で異なる結果が現れた場合、それを比較すれば、何がその違いの要因になっているのかが分かります。これは、現実問題の原因を考え、対応する作業にも結びつくでしょう。学問によって現実政治で起こっていることの原因を明らかにすることは、現実問題への対策を検討する作業に繋がっていくと言えます」  
こうした比較という作業を、政治学において行うにあたり、具体例として、先生は1980年の韓国と、87年の同国を挙げている。この2つの年は状況として、国が同じ韓国国内であることと、権威主義がはびこっていたという共通点がある。しかし一方は民主化に失敗し、もう片方は成功するという異なる結果が生じてしまったのだ。
「80年の韓国では民主化の動きがあったのですが、それを良しとしない政府によって民主化を願う国民たちは弾圧されてしまい、失敗に終わりました。その一方、87年の同国では政府側が民衆の主張を受け入れ、政府の妥協という形で民主化が実現したんです」
このように、結果に大きな違いが現れた韓国内政。その根本的な理由は、当時の世界情勢と国民の意識の変化にあったと先生は考えている。
「新冷戦といわれた80年は、国民は政権に反対することができませんでした。というのも、韓国の政府は、北朝鮮という共産主義への脅威に対抗できる強い国家を作ろうと、自国を非民主主義的な政権として維持していたからなんです。しかし、その後の7年の間に、国際的に共産主義の脅威が減少してしまいました。そして、同時に対共産主義を口実にして国民の権利を抑圧する体制に疑問が生じ、それに抵抗する運動が国民の支持を受けて成長したという違いが見られます」
日本の学生たちに向けて
このように、比較政治を進めることで見えてくるものがある。例えば同じ民主主義国家として日本は、韓国から学ぶべき点があると先生は指摘する。
「日本に比べ遅れて民主化を果たした韓国ですが、民主政治の状態が日本より劣っているということは全くありません。民主化が実現するまでのプロセスや、現在進めている手探りの政治から日本の民主主義に不足しているものを探し出すことができるのです。国際化が進む今、日本にだけ焦点を当てていてはいけません。相手を知らなければ友好関係は結べないでしょう。私達は他国に目を向けていかなければならないのです。そして他国を知ることは、自分たちを改めて発見することにつながるのです」
今後、アジアがさらなる発展を遂げることは自明である。その時、日本が近隣諸国とどう付き合っていけばよいのか。それを模索する際、今後の先生の東アジア政治研究が大いに重要となっていくだろう。
 PROFILE
磯崎典世(いそざき・のりよ)
 東京大学大学院総合文化研究博士課程中退。現在の研究テーマ、現代韓国政治・朝鮮半島をめぐる国際政治。