理学部物理学科 高橋利宏教授 大切なものを掴めた日々

 今回は、物理学科の高橋利宏教授の登場です。先生の学生時代の思い出は、どのようなものでしょうか。
 慌ただしかった大学時代
 僕が学生の頃は大学紛争の真っ只中で、3年生の頃は授業がほとんどありませんでした。その渦中で歴史にも残る東大安田講堂攻防戦を体験しました。僕は活動家ではありませんでしたが、クラスの討論会に参加し、大学の自治やその社会的な役割について真剣に議論しましたね。ストが解除された時は強い敗北感を感じたものです。
 研究の魅力を知って
 その後、僕は大学院に進学しました。理由は、ストの後遺症もあってかいささか曖昧でしたね。大学院に入って初めて研究の楽しさを実感しました。僕が実験していたテーマを後輩が理論的に解析する研究をしてくれたのです。その際、理論と実験が同時に発展する様を体験することができました。自然科学の実験の多くは、それまで誰もしたことがないものです。つまり、自分がその事実を世界で最初に確かめることができるのですよ。そこに面白さを感じて、今もそのような研究を続けています。
 歌手を体験
 大学院に入ってから、僕はボランティアに参加するようになったのですが、子供達とキャンプに行った際にたまたま披露した自作の歌が、参加していたNHKの人に目を付けられました。そしてFM放送に出演、レコードが出て、「みんなのうた」にまでなったのです。『おでんの唄』というちくわが主人公のたわいのない歌です。レコードなので今は聞けませんが、貴重な経験でした。
 学生時代にはクラブ活動にも熱中していたし、もっと勉強しておけば良かったかなと思うこともありますが、それだけでは社会のことは学べなかったでしょう。決して暖かい気持ちになる思い出ばかりではありませんが、どれも捨てがたい大切なものです(取材・構成 須野原遼)
 PROFILE
 1970年東京大学理学部物理学科卒。同大学院理学系研究科物理学専門課程修了。筑波大学技官、パリ南大学固体物理学研究所研究員を経て、83年学習院助教授、89年から現職。