休暇

監督 門井 肇 出演 小林薫西島秀俊/大塚寧々/大杉漣 2008年/日本映画/115分 配給 リトルバード
 人の命を奪った者が、果たして本当の幸福を得ることができるのか。生と死の間で揺れ動く一人の人間が、やがて辿り着く場所とは…。
 主人公の平井は、死刑囚を収容する拘置所に勤務する刑務官である。死を待つのみの囚人と関わらなければならないことは、辛く苦悩が多い。平井は仕事仲間と深く関わることもせず、淡々と日々の業務をやり過ごしていた。そんな中、未婚のまま年を重ねていた彼は、姉の勧めでシングルマザーである美香と結婚することになった。
 こうして順調に事が運び、平井と美香の挙式を目前に控えた頃、死刑囚・金田への執行命令が言い渡される。そして、この処刑の際に支え役(死刑執行補佐)を務めれば、一週間の休暇が与えられるという。支え役とは、刑務官の誰もが嫌悪するほど、心身ともに負担の大きい任務である。その過酷さは、平井自身も十分に理解していた。しかし、彼は新たな家族と新婚旅行に出掛けるために、共に生きる決意の代償として、支え役を引き受ける。同僚たちは平井の決断に驚き、激怒するが…。
 この映画の原作は、本学OBである文豪・吉村昭氏の短編小説である。本の内容を活かした、徹底した取材と心理描写によって作られた巧妙なストーリーが、見事に映像化された。一人の死刑囚の命をめぐり、多くの人が悩み悲しむ姿は、重いテーマだけに心が詰まる。それは、死刑が一概に是非を問えない、難しい問題であるからだろう。希望を奪われた死刑囚と、彼の未来を奪う使命を託された刑務官たち。ここに浮かび上がる、人が人の生死の判断を下すことの正当性について、観る者は深く考えさせられるはずだ。
 けれども、幸福に向けて生きようとする人の姿も並行して描かれており、希望を感じさせる。平井の全てを受け入れる美香の穏やかさは、静かに心を温めてくれるだろう。生きることの意義を学ぶ機会となる、心に迫る作品だ。(木村明子)