感動をコミックスで

 源氏物語の世界を知りたい。でも、古文を読むのは敷居が高く感じる…。そんな人に提案したいのは、源氏物語をコミックスで読む方法である。大学受験の際に、勉強の一貫として勧められた人も多いのではないだろうか。確かに漫画は文章を追うよりもとっつきやすいし、時間もかからない。源氏物語の入門書としては最適だろう。
 原作が非常に有名な作品である分、この物語は多くの漫画家によってコミックス化されている。原作に忠実なものから、作家の斬新な解釈により、新たな脚色がなされているものまで様々だ。そんなたくさんの中から、今回は、優れた3作品を紹介したい。
 まず1つ目は、言わずとしれた大和和紀の『あさきゆめみし』(講談社コミック)だ。ページを開いた瞬間、まさに少女漫画の王道といったタッチの、雅な平安の世界が広がる。本作は描写の繊細さに定評があり、作者の大和氏は現代の紫式部と賞される程だ。ストーリーもほぼ原作に忠実であり、読者は当時の様子を映像的に理解できるのだ。千年前にタイムスリップしたような感覚を味わいながら、光源氏の激動の一生を垣間見ることができるだろう。
 次に紹介したいのは、小泉吉宏の『まろ、ん?―大掴源氏物語』(幻冬舎)だ。こちらはキラキラした少女漫画には抵抗があるという方に特にお勧めである。なぜなら、本書の中では絶世の美男子である光源氏の顔が、なんと「栗」になっているのだ。これは、平安貴族男性の一人称である「麻呂=まろ」をもじった駄洒落からの産物で、親しみやすさを追求した結果、このような姿になったらしい。なんともユニークな着想だが、かといって本作は決しておふざけの内容ではない。中身は各章をわかりやすい8コマ漫画で要約した構成になっていて、本書を読めば少ない読書時間で源氏物語を読破した気分になれる。可愛いイラストを眺めながら、源氏の世界の虜になること請け合いだ。
 また、源氏物語を新たな角度から見てみたいという人には、きら作の『GENNJI源氏物語』(集英社コミック)を推したい。この話の特徴は、原作より少々お転婆な紫の上の視点で物語が進行することだ。そして、光源氏を稀代のプレイボーイとしてだけではなく、彼の一途で傷つきやすい純粋な面も丹念に描いている。彼の周りにいる人々の心理にも着目しているので、本書を読めば登場人物たちを一人の人間として、より身近に感じられるはずだ。
 以上、源氏物語のコミックスの有名な3作品を挙げた。平安時代の作品でありながら、現在も姿を変え影響を与え続ける源氏物語。せっかくの機会に、この偉大な作品の世界を、漫画で気軽に覗いてみてはどうだろうか。(大原梨句)