漢字――それは表意文字の一種であり、絵文字から発達した文字のため、それ自体が意味を強く持っている。中国から伝わったこの漢字は、日本語を書く際になくてはならない存在と言えよう。ところが近年、世間では日本人の漢字力低下が危ぶまれている。確かに、個別指導塾で中学生や高校生を対象に教えていると、常用漢字をしっかりと読み書きできない生徒を見かけることが多い。また、部活動で反省文を書き、皆で読み回す時にも、簡単な漢字での誤字を目にしてしまう。このように様々な場面で漢字力の現状を実感せずにはいられない。
 しかしながら、もしこの状況がいつまでも続いてしまったらどうなるのだろうか。まず手紙などの文章を正確に読み取れなくなり、書けなくなると予想される。そしてそのような人々が増え続けると、自ずと漢字を遠ざけてしまう気風も生まれてくるだろう。結果として、さらに漢字が苦手になり、距離を置くようになっていく……この悪循環を回避するためにも、我々は漢字力の低下を解決するべきではなかろうか。

  • 漢字を意識することの大切さ

 では一体、どうしてこのような現状が引き起こされているのか。私はコンピュータの変換機能こそが事態を悪化させていると考える。例えば私の名前にある「穂」という漢字は、「恵」の右上に「、」があると勘違いしている人が多い。おそらく「博」などの似ている部位と、知識を混同させているのだろう。だがそこで変換機能を使えば、曖昧に覚えている漢字を適切に入力できる。その便利さに甘んじて、普段から変換機能に依存し過ぎると、人々は一字一字細部まで注意を払わなくなってしまうのだ。このようにして、自分の力で正しい漢字を書けなくなってくるのだろう。
 さて、漢字に対する意識が薄れている一方で、漢字の読み書き能力を重要視する動向も見られ始めた。高い漢字能力が、入学試験などで優遇されるようになってきているのである。その波に便乗するかのごとく、漢字能力検定の年間受験者数は、平成11年度の約130万人から昨年度は約240万人までに増加したという。しかしそれに限らず、日ごろから関心を持って、積極的に漢字に触れていくことも、漢字力を高めるための大切な要素となるに違いない。例えば、思い出せない漢字があったら、すぐに辞書を引くように心がける。また、息抜きに読書や漢字パズルを楽しむことでも効果をあげられそうだ。
 漢字力の低下は今もなお進行し続けているが、先にも触れたように、中には漢字の重要性を見直すという喜ばしい動きもある。とはいえ一部の人々が行動を起こすだけでは日本人の漢字力を増強できない。なぜなら、多くの人々が能力を向上しようとしなければ、全面的な解決につながらないからだ。そのためにもまず、一人ひとりが漢字に対する意識を高めていくことが重要である。長い年月がかかるかもしれないが、じっくりこの問題と向き合う必要があるだろう。(フランス文学科2年 中谷美穂)