司法のプロに聞く制度導入の効果

 では、専門家は裁判員制度をどのように考えているのだろうか。そこで、昨年まで福岡高等裁判所で長官を務められていた、本学法科大学院の龍岡資晃教授にお話を伺った。
 最初に、制度導入により裁判が国民にとって身近でわかりやすいものになるというのは、具体的にどのようなことなのか尋ねてみた。「例えば、これまでの裁判は、間違いがないよう慎重な審理をしてきたため、事件によっては審理に時間がかかり、わかりにくく、判決文は難解でした。ですが、制度が導入されると、誰もが理解できるような審理がなされ、判決も簡潔でわかりやすいものになるのです」。裁判で使われる難しい専門用語なども、誰もが理解できるように説明がなされるという。
 また、どのような理由で審理が迅速化されると考えられるのだろうか。「仕事や家庭で忙しい国民の皆さんに参加していただくので、審理に何週間もかけるわけにはいきません。ですから、新しくできた公判前整理手続きで、あらかじめ事件のあらすじや要点を整理し、事件の争点を絞ります。それに即して必要な証拠調べを短期間で連日的に開廷して行いますので、無駄のない裁判が行えるようになります」。迅速で平易な裁判が可能になれば、裁判が身近なものになり、司法に対する国民の信頼も向上するだろう。
 ほかにも、制度導入の狙いに、裁判に国民の良識を反映させることがある。「有罪となった被告人に対して、科される刑がより国民の感覚に合った適切なものになっていくでしょう」。
 このように、裁判員制度の導入により期待される効果は多い。だが、アンケート結果に見られるように、自らが参加することに不安を抱く人も少なくない。「確かに、裁判員の仕事は責任が重いですが、決して1人で裁くのではありません。ほかの8人と十分に合議し、その結果として結論を導くのです」。従って、判決内容において誰か1人の責任が問われるわけでは決してないのだという。
 とはいえ、そのような場で裁判員がきちんと発言できるのかという疑問も浮かんでくる。この点について龍岡教授は、「一般の方の意見が反映されないとこの制度の意味がなくなってしまいますから、裁判員には自由に意見を言ってもらわなければなりません。そこで例えば、裁判官は審理を始める前に裁判員がリラックスできるように言葉をかけ、評議などで意見を言いやすい雰囲気を作ることを心がけるはずです」と語る。しかし、素人である裁判員は、裁判官の意見に影響されてしまうのではないかといった懸念もある。「そうならないために、まず裁判員の方に意見を言ってもらいます。裁判官はそれらの意見に耳を傾けながら、専門家としての意見を述べ、皆で一緒になって合議をしていくのです」。
 最後に、龍岡教授から「皆さんがもし裁判員に選ばれたら、積極的に参加してください。務めを終えた後に、大きな達成感を味わえると思います。こうして皆さんがこの制度を育てていくのです」とメッセージをいただいた。法律のプロでないからこそ、見えてくる真実があるかもしれない。それゆえ、私たち国民が自らの視点を活かし、裁判員という役目を果たしていくことが大切なのである。(小室真衣子)