[2面]揺れる心を熱演 斜陽

【3日 西2―201】 
 今年も「貴社の記者は汽車で帰社」による演劇が行われた。この団体は、平成17年度入学(現3年生)の日本語日本文学科の学生が、有志で集まり結成されたものである。日本文学の面白さを、多くの人に知ってもらうことが彼らの狙いだそうだ。
 今舞台の原作はは、太宰治最高ののロマン作品である『斜陽』だ。本作は、第二次世界大戦終結した後の、激動の時代に執筆された。貴族の母と姉弟が没落してゆく悲哀と美しさを、姉のかず子の目線を通して描く。彼女の弟の直治は、民衆になりきれずに「僕は貴族です」と遺書を残し自殺してしまう。一方でかず子は、数々の試練を乗り越えて、懸命に太陽のように生きようと決意する。苦しい生活の中でも前向きに生きるかず子の強さと、社会に負けて自分を見失う弟の弱さの対比が印象的だ。
 団員達は、迫力のある演技と繊細な表情で、姉弟の心情を巧みに表現していた。だからこそ、思わず物語に引き込まれるのだろう。さらに、母の不思議な魅力もよく出ていた。また、1人何役もこなす団員が多かったが、それぞれの役柄の特徴をよく捉えていて違和感がない。要所で使われる照明と音響も効果的で、舞台がさらに映えた。練習期間はわずか5ヶ月であり、長いセリフが多く苦労もあったに違いない。しかし、見事に演じきり、観客から割れんばかりの拍手が贈られていた。
「心に残る場面は、弟の遺書の中で、姉が弟のために作り直した母の着物を、棺の中に入れるように頼んだところです」と総指揮と音響プランを担当した横堀泉さん(日3)は振り返る。滅びと新たな時代という深いテーマの中に、家族の絆が表れているからだそうだ。
 次回の公演では、団員は大学卒業の年となり、グランドフィナーレを迎える。題材は、日本文学史上の雄として名高い『源氏物語』だ。今までの集大成である来年は、今回見逃した方もぜひ足を運んでもらいたい。(木村明子)