[1面]曽野綾子氏講演会

 10月13日創立百周年記念会館正堂にて、曽野綾子氏の講演会が行われた。老若男女を問わず、多くの人々で会場はほぼ満席となっていた。
 小説家である氏の話はとても理解しやすい。世界各国における宗教観や死生観といった漠然とした内容であっても、身近な題材を基にして快活に語ってくれるのだ。例えば、講演中の言葉で『盗みとは一番簡単な物資の移動』というものがあった。生きるための行為が人の正しい行いならば、貧困な環境の中では窃盗ですら正当となり得る。その独特な価値観は、恵まれた日本の状況下では受け入れがたいものなのだ。無用の誤解を避けるためにも、それぞれの国の独自性を理解することが大切だ。曽野氏は、生々しい世界の現状をよりたくさんの人々に知ってもらおうと、切に言葉を紡いでいた。
 終演後、会場を後にする人々の中には、親子で何かを討論する姿もあった。どうやら今回の講演が、仲秋の談義に花を咲かせたようである。世界の話がさりげなくお茶の間にのぼることで、少しは世の中の意識も変わっていくかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、二人の背中を見送った。(熊)