国内外での問題と対策

 ここ数年、国内外で著作権に関する様々な事件が起きている。その具体的な内容と対策について、文化庁にお話を伺った。
 近年特に問題となっているのが、著作権を侵害した商品、いわゆる「海賊版」の拡大だろう。その撲滅を目指すべく、文化庁で講じられている対策について尋ねた。「海賊版への法的措置については文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の有識者間で話し合われています。その中で、最も効果が期待されているのが、譲渡目的の告知行為の取り締まりです」。インターネット上などに掲載された海賊版の広告が、その売買を助長する恐れがあるため、取り締まりの対象とするのだという。だがこの対策は、適正な広告行為に萎縮効果を招く恐れがある。それらの課題を踏まえつつ、法改正も視野に入れて議論を進めているそうだ。
 なお、海賊版一掃のためには、国内のみならず諸外国との協力も必要になる。国外において、文化庁はどのような取り組みをしているのだろうか。「東アジア、特に中国・韓国における侵害状況の改善に努めており、侵害発生国と二国間協議を行っています。さらに、海賊版の横行を阻止すべく、WIPO(世界知的所有権機関)と協力して、途上国を対象にしたシンポジウムの開催や、国民向けの教材の開発など様々な対策を採っています」。日本と諸外国間での制度見直しや、国民への知識の普及などにより、問題を根本から解決する姿勢なのだ。
 さて、市民生活の中にデジタル技術が浸透したことによって、著作権のあり方にも変化が生じたという。「社会が急速に情報化した現在、昭和45年成立の著作権法では、対処しきれない問題もあります。それらの解決のために、状況に合った法改正を進めようと審議を行っています」。
 また、最近は著作権保護期間の延長をめぐる討論も行われている。保護期間を70年に延ばすよう求める運動が、権利者団体などによって行われ、各方面でその賛否が分かれているのだ。「権利者と利用者、それぞれの主張を尊重し、慎重に論議を重ねています」。その際焦点となるのは、著作権制度の目的である「文化の発展」を促すのはどちらか、ということだ。「技術の発展により、ネット上などで気軽に創作活動を行い、情報を発信する人が多くなりました。そのため、仮に保護期間が70年に延びると、創作の際に過去の著作物を自由に利用できなくなり、新たな創作の可能性を潰してしまう恐れがあるという意見があります。しかし一方では、保護期間が延びることで、新しい著作物の創作への意欲や投資が高まるとの意見もあります」。後世の文化の広がり方に作用し得るため、さらに議論は続くと考えられる。
 最後に、著作物を利用する際に学生が留意すべきことを伺った。「デジタル化が進み、著作物を利用しやすくなったため、それらは全て無償で利用できると思ってしまいがちです。ですが、その裏には権利者がいることを忘れないでください」。
 権利者と利用者双方のバランスがとれた制度を作ったとしても、それを国民が意識しない限り、事態の改善は見込めない。他者の情報を正しく利用した時に初めて、私達は自身の権利を主張できることを自覚したい。(賀来潤恵)*p11*[2面]身の回りの著作権
 大学では、レポートや論文などの著作物を自ら生み出す機会が多い。では、身近な著作権をどのように守ればよいのか。そこで、本学法学部法学科の横山久芳准教授にお話を伺った。
 はじめに、レポートにおいての著作権を尋ねた。よく授業で言われる、コピー&ペーストは、著作権の侵害で罪を問われるのか。「著作権法の上では、レポートが雑誌など公に掲載される場合を除き、違法ではありません」。しかし、他人の著作物を借用し、自分の見解のように提出するのは、モラルの点で問題があるため、出典を明記するなどの対応を採るべきだそうだ。
 授業の場面では、ゼミなどで他人の論文をコピーして配ることがある。これは、著作者に許諾なく複製しているが、問題ではないのか。「講義やゼミで資料として他人の論文を使うために複製するのであれば、著作権の問題は生じません。でも、授業と無関係に大量に文献をコピーしたりすることは許されません」。
情報を得るのに欠かせないインターネットの利用の仕方にも、言及していただいた。「最近の学生は、便利なインターネットに何でも頼る傾向があります。けれども匿名でやり取りされる情報は、信憑性に疑いがあるものも多いため、有益な情報を取捨選択するのが大事です」。まずは、書籍を読み、地道に調べて基礎能力を身に付けたほうがよいだろう。
 近年では、私的利用から外れる利用方法も登場している。例えば、自分で動画を配信できるサイトYou Tubeや、音楽をダウンロードできるiPod。これらは多くの人に活用されているが、著作権の侵害と言えるのだろうか。それに関して横山准教授は、「一般人が行う場合も不特定多数に向けた発信なので、これらは違法です」と語る。とはいえ、利用者側からすれば無料でたくさんの情報を素早く得られるので、このようなサイトは便利なもの。「将来的には、サイト運営者側と著作者間で協議し、一定の対価を払うなどしてサイトが存続できるようになれば望ましいでしょう」。
 さらに、行事に関係する著作権の例を尋ねた。「学園祭でCDを使ったり、楽曲を演奏する時に著作権が関わります。とは言っても、大学などの非営利で行う場合は、無償でやっているので公の許可は要りません」。だが、料金を取ると違反となるそうだ。
 また、日本文化の代表と言える漫画の著作権をお聞きした。漫画喫茶や貸本屋は現在どのような位置づけか。「著作者には貸与権があるため、家に持ち帰って読める貸本(レンタル)業を行うには著作者の許諾が要ります。しかし、漫画喫茶のようにその場で著作物を閲覧する場合は、法的に『貸与』にあたらず、漫画喫茶は著作者の許諾なく営業できます」。ただし、漫画喫茶の登場により、著作者が不利益を被るので、改正を考える議論があるようだ。
 最後に、学生が著作権を守るために心得ておくことについてメッセージをいただいた。「著作権法に関心を持ち、私人でも著作権を侵害する可能性があるという意識を持つようにしましょう」。何かを発表する際には、著作者に配慮し、限度を超えた複製はしないようにしなければならない。
 著作権は、目に見えない権利であるため曖昧で侵害してしまいがちだ。だが、著作権は文化の発展の上で、重要なもの。上手に著作権と付き合う方法を日々考えていくのが大切だ。(木村明子)