お風呂と体のメカニズム

 お風呂は、体の汚れを落とし、さっぱり清潔にしてくれる。しかし、その役割はこれだけには留まらない。湯船にゆっくりと入って温まった後には、体が軽くなったような気分がすることが多々あるだろう。日々の入浴は、私達の健康を密かに支えてくれているのだ。それでは、お風呂が体に与える効果とは、具体的にはどのようなものなのだろうか。 
 まず入浴には、主に3つの作用がある。最初に挙げられるのが「浮力」だ。水中では、浮く力が働くため体が軽くなる。体重が60キロの人でも、湯船に入ればなんと約6キロの軽さになるという。そのため、空気中で体を動かすときよりも、ずっと楽に体を動かせるのだ。体の重さから解放されて、普段体を支えている筋肉や関節への負担も少なくしてくれる。そのため、痛みがある部分でも、スムーズに曲げ伸ばしができる。関節痛などの症状があるときには、お風呂の中で運動をすると効果的だろう。
 2つ目の作用は「水圧」だ。長くお湯の中に浸かっていると、体は全方向から圧力を受ける。これによって、まるで天然のマッサージを受けているような状態になるのだ。水圧は皮膚だけでなく、皮膚の下の血管も押すので、血液の流れが良くなる。そして湯船から上がったときに、体が水圧の影響を受けなくなり、手足の先まで綺麗な血液が行きわたるのだ。ただし、急に立ち上がると貧血を起こすこともあるので、注意が必要。お風呂に入ると次第に体の疲れが取れるのは、この水圧のおかげだと言える。
 最後に、入浴の最大の効果であるのが「温熱」による作用だ。熱いお湯に入って体が温まると、血管が広がって血行が良くなる。新陳代謝に必要な栄養分は全て血液でできているので、血の巡りが良くなればなるほど、体は元気になるのだ。さらに、腎臓の働きが活発になり、尿の量が増えるため、体の中の老廃物や疲労物質をより多く体外へ排出してくれる。これによって、様々な体の痛みが和らげられる。お湯に浸かるというだけで、体に良い影響は数多くあるのだ。
 また、温熱作用は自律神経の仕組みにも影響を及ぼす。湯船の中に体を入れると、そのお湯の温度によって、交感神経と副交感神経の働きに違いが出てくるのだ。熱めのお湯に入ると交感神経が作用して、体を活発にする。一方、ぬるめのお湯に入ると副交感神経が機能し、体を落ち着かせ、休めさせる。そこで、寝覚めの悪い朝には熱いシャワーを浴び、熟睡したい夜にはぬるめに設定することをお勧めしたい。そうすれば、入浴次第で体の状態を調整できるだろう。
 このように、お風呂の習慣は知らず知らずのうちに、私達の健やかな体づくりに役立っていたのだ。また、何より裸になって湯に浸かるという開放感も、日頃のストレスを取り除いてくれているのだろう。心身ともにリラックスさせ、健康へと導いてくれるお風呂。その効能を再認識し、充実した入浴生活を楽しんでみてはいかがだろうか。(市川美奈子)