図書館長に聞く読書の真義

 こうした本学の状況について、大学図書館館長で、英語英米文化学科の塩谷清人教授にお話を伺った。図書館館長の目には、学生の読書に対する姿勢はどう映っているのだろう。
 まず、大学図書館の利用状況はどうなのか。「年間の貸出冊数は、1991年に4万3千冊でしたが、毎年増加をたどり、2001年度は7万冊を超える勢いでした。ただ、ここ5〜6年は大きな増加はなく、7万台に留まっています。一方で来館者数の伸び悩み傾向があり、全体の印象は、読書する人と、しない人の二極化が進んでいるようですね」と、塩谷教授は指摘している。最近は、小中高の学校が読書の時間を設けて、それを習慣づけるための働きかけがなされている。だが、こうしたデータを見ると、やはり活字離れの進行は否定できないようだ。
 とはいえ、そもそもなぜ本を読む必要があるのか、疑問に思ったことがある人も少なからずいることだろう。そこで、本を読むことの本質的な意義は一体何なのかについて尋ねてみた。これについて、塩谷教授は「本は、受け身でいても情報を伝えてくれるテレビなどと違って、自分で能動的に考えながら読む作業をする必要があります。そして、それこそが読書の最大の意義なのです」と話す。書を読むという行為は、それ自体がホモ・ルーデンス、つまり人間にしかできない精神的遊戯なのであるという。「書物によって、私たちはまだ見ぬ世界を見、語彙を豊かにしていくのです。それは、コミュニケーション能力を向上させることにも繋がっていきます」。また、本では言葉のひとつひとつが深い意味を持っているのだという。例えば、「薔薇」「バラ」「ばら」の3つは、同じものを指していながら、表記の仕方によって違った印象を与える。こうした点は映像では表現できない、本ならではの特徴なのである。
 ところで、学生にはどのような本が読まれているのかについても聞いてみた。「貸出回数や予約件数が多いのは、ベストセラーになった本や、資格取得や就職関連の実用書などですね。最近は、読んですぐ役立つもの、自分の身につくものに人気が集まる傾向があります」。だが、塩谷教授はこうした風潮をあまり好ましくは思っていないようだ。「全く読書をしないよりは、実用書でも何でも読むに越したことはありません。自分が好きな作家の本を選ぶのも結構です。ですが、せっかくなら多様な本を読むようにしてほしいですね。そうすることによって、自分の世界がさらに広がっていくのですから」。
 また、あるデータによると、50歳以上でも本を読まない人が増えているそうだ。塩谷教授は「若い頃は仕事一筋で、本を読むという習慣がなかった人は、歳を取って時間ができた時にも本を読もうとしないようです。そうした事態を避けるためにも、早くから読書の習慣を身につけておくことが大切でしょう」と話している。
 最後に、塩谷教授は学生へ向けて「ゆとりある、心豊かな生活を送ってほしいですね」と語ってくれた。読書に限らず、何事もゆとりがなければできないし、すぐに行き詰ってしまう。たまには一息入れて、本を読めるような心の余裕を持つべきなのだろう。
 忙しいから、時間がないからと言い訳をする前に、まずは本を手に取ってみようではないか。読書をしたからといって、何かがすぐに変わるわけではない。しかし、これを継続していくことによって、自分自身の心を、そして人生そのものを潤沢にすることができるのではないだろうか。(美馬香織)