気軽に楽しむ読書方法

 本を読もう、と意気込んではみても、いざとなるとどう手を付けたら良いかわからないことは誰しもあるはず。ここでは、読書を始める最初のきっかけづくりとなるような、身近な方法を紹介してみたい。
 「読書」とだけ聞くと、姿勢良く机に向かって行わねばならないような、堅苦しい作業のように思われてくる。しかし、楽しく豊かな読書は、もっと自由で場所も時間も選ばないもの。例えば、毎日の通学電車や夜眠る前の布団で、気軽に本を開いてみてはいかがだろうか。ほんの少しの空き時間を、有意義なものへと変えてくれるのが読書の長所なのだ。軽くて持ち運びのできる本は、いつでもどこでも親しめる。そんな利点を最大限に利用して、日常の一部に読書を組み込んでみよう。
 本選びに迷うのなら、出版社が刊行して書店に置かれている、お勧めの文庫本紹介の冊子を参考にするのも良いだろう。新潮社では、「新潮文庫の100冊」という、Yonda?パンダが目印の冊子を発行している。古今東西の名作から現代小説・エッセイに至るまで、様々な作品のあらすじを知ることができるのだ。それらの中から興味の湧いたものを、1冊ずつ手にとって読み進めてみよう。さらに、新潮文庫の背表紙についているマークを集めて送ると、Yonda?パンダのオリジナルグッズをもらうことができる。読書にごほうびが付いてくるので、一石二鳥の嬉しさが得られることだろう。
 他にも、流行りの本をマスターするには、有名な文学賞を受賞した作品や作家を手がかりにしてみよう。最近注目されている「本屋大賞」は、2004年に設立された新しい文学賞だ。全国の書店員が、その年で一番売りたい本を選ぶ、というのがこの賞の大きな特徴である。プロの作家が審査員となる他の文学賞と異なり、エンターテイメントに徹した作品がノミネートされることが多い。そのため、歴代受賞作品の『博士の愛した数式』や『東京タワー』は、映画化・ドラマ化がなされ、多くの人々に親しまれている。今年度の受賞作は、伊坂幸太郎氏の『ゴールデンスランバー』だ。話題にのぼること間違いなしの作品を、一足先に読み終えておこう。
 少し背伸びがしたい人には、新訳された文学作品に挑戦することをお勧めする。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』や樋口一葉の『たけくらべ』なども、新たに訳し直されることで、より現代人に理解しやすくなっている。時を経て広く読み継がれてきたこれらの名著には、日頃味わえない重厚さが感じられるはずだ。
 また、読書の一番の長所は、何より低コストで楽しめることだ。映画に1回行くお金があれば、文庫本を3冊買うことができる。図書館を上手に利用するなら、絶版になった貴重な本も、無料で読める。そして時には、そんなたった数百円の書物との出会いが、それまでの自分の価値観をまるごと変えてしまうこともあるのだ。そのような経験は、金額には換えることのできない、特別なものとなるはずである。1冊の本が秘めている可能性は、まさに無限大なのだ。
 ここで紹介したのは、数多い読書方法のうちの、ほんの一部である。気負わずに試してみて、ぜひとも自分に馴染む読書のスタイルを見つけてほしい。(市川美奈子)