訓練所に聞く実態と展望

 先月2日、特定非営利活動法人日本補助犬協会は、横浜市旭区に「あすなろ学校」を開校した。ここでは補助犬の育成と共に、訓練士や指導員の養成も行っている。そこで、今回は現場の最前線の声を聞くべく、同施設の副理事長と訓練センター所長を兼任されている朴(ぱく)善子さんにお話を伺った。
 補助犬は規定のトレーナーの下で訓練を受ける前に、一般家庭で育てられる。だが、パピーウォーカーと言われるこの人たちは、今担い手が足りていないようだ。「ボランティアであるパピーウォーカーの募集は、タウン誌を通じて宣伝しています。また、実際にこうした施設を訪問したり、連絡して下さった方には直接資料を渡すこともします」。けれども、まだこうした情報は少なく、それが人手不足に繋がっているという。「興味がある人自体は多いのですが、どこに申し出ればいいか分からず、結局機会を逃してしまったというケースが多々ありますね」。
 こうした情報不足の問題は、補助犬そのものにも当てはまる。「盲導犬はほぼ完全に認知されています。しかし補助犬というカテゴリーになると、知っている人は少なくなりますね」。聞知されていないという状況は補助犬を広めていく上で痛手である。なぜなら、こうした補助犬の訓練施設の運営は大部分が寄付金に依存しているからだ。「寄付する側も、得体の知れないものに対しては募金しにくいものですからね。募金箱を置いてもらうにしても、『聴導犬介助犬も含む補助犬への寄付』となると未知のものであるために断られることが多いです」。
 さらに深刻なのは、やはり補助犬の需要と供給の問題だ。仮に情報が行き渡った場合に申し込むだろうとされる身体障害者の数は、盲導犬で7800人にも上り、完全な需要超過となっている。介助犬聴導犬に関しては調査をしていないため詳細は出ていないが、それぞれ1万人は必要としているだろうと予測される。補助犬の本格的な育成はまだ始まったばかりであり、訓練が追い付いていないようだ。
 では、これほどまでに求められる補助犬にしかできないこととは何であろうか。尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。「補助犬も一般家庭の犬と同じように、飼い主にとっては愛犬に変わりはありません。犬好きの障害者の方なら、愛犬が自分を手助けしてくれたら、とても嬉しいですよね。補助犬にしかできないことがあるというよりは、そういったプラスアルファの点があるというのが補助犬です」。
 最後に、私たちに知っておいてほしいことについて次のように説明してくれた。「まずは身体障害者補助犬法ができたこと。そしてこの法律で盲導犬介助犬聴導犬の3つを合わせて『補助犬』と呼ぶようになったことを何よりも知ってもらいたいです。というのも、いまだに介助犬聴導犬は外出先で入店時にひと悶着起こしてしまうことがあるのです」。例えば、アルバイトの店員がたまたま盲導犬しか知らず、介助犬聴導犬の入店を一度拒否したり、店長に確認を取るために時間がかかってしまうということなどは実際にあるそうだ。もちろん彼らに悪気はなく、単に耳慣れなかっただけである。「補助犬は公共施設だけでなく、不特定多数の人が出入りする施設はどこでも同伴できることになっています。このことも是非心に留めて置いてください」。
 援助をするにしてもまずは補助犬そのものが分らなければ何もできない。知るということは小さなことに思えるが、最も大切なことでもあるのだ。自分には関係ないと思わず、関心の目を向けてみてほしい。
(和田恵理子)