現在の課題と国の対策

 これまで述べてきたように、国内における補助犬への認識は、決して十分とは言えないのが現状だ。その事態を打破するために、行政はどのような策を講じているのか、厚生労働省の方にお話を伺った。
 まず、より多くの人に補助犬制度を知ってもらうための、国の施策について尋ねた。「ポスターやパンフレット、リーフレットステッカーの配布を行っています。また、専用のホームページも公開中です。もしそれらを見かけたら、周りの人にも教えてあげてほしいですね」。
 もちろん、ただ情報を提供するだけでは、人々の理解は深められない。そのため、厚生労働省では国民の意識啓発にも力を入れているという。「地方公共団体の職員への指導研修や、小学校での児童への説明会などを行っています」。社会の受け入れ態勢を整えるためにも、国は関係機関と協力した上で、普及啓発活動をより一層推進していく構えなのだ。
 ところで、補助犬の存在が世間に浸透しない原因として、「汚い」「怖い」といった補助犬に対する先入観が挙げられる。しかし、それらは大きな間違いである。「補助犬使用者は、公衆衛生上の危害発生の防止に尽力しています。犬を清潔に保ち、他者に不快感を与えないよう気を配っているのです。また、万が一にでも感染症などを引き起こさないよう、日々の健康管理を獣医との連携の上で行なっています」。なお、使用者による補助犬の健康維持を支えるために、国は「身体障害者補助犬健康管理手帳」を作製し、活用を促しているそうだ。
 また、補助犬使用者に求められることは、衛生の確保だけでない。「専門の訓練事業者により養成された補助犬であっても、動物であることには変わりはありません。ですから、日常の世話や行動の制御、そして補助犬を使用する上で問われるマナーの遵守が必要です。今後は、訓練事業者による補助犬使用者への教育の、さらなる充実が図られることになるでしょう」。補助犬の行動は使用者がしっかり管理している。そのため、補助犬が周囲へ危害を加えるようなことは起こり得ないのである。
 このように補助犬使用者は、貸与に伴う苦労を背負いながらも、補助犬と共に生活の向上を目指している。だが、このまま認知が広まらない状態が続けば、身体障害者の方が補助犬の使用を躊躇してしまうかもしれない。国は、そのような事態を回避するために、法律の改正にも取り組んでいる。補助犬使用者がより良い生活を送れるよう、彼らを取り巻く環境の整備をしているのだ。
 最後に、私たち学生はどのように補助犬と接すれば良いのか伺った。「身体障害者の方への支援は、補助犬の貸与だけで完成するわけではありません。地域や用具、そして人による支援といった、様々なサービス形態が必要です。補助犬がいることによって使用者の身の回りのことが全て解決するわけではないのです。そのことを忘れずに、もしも補助犬の使用中に困っている方を見かけたら、積極的に声をかけてください」。補助犬の仕事が円滑に進むよう、常に配慮しておくことが肝要なのだろう。
 私たちの無知ゆえの偏見によって、補助犬使用者の社会参加が妨げられることは絶対にあってはならない。補助犬への誤った考えを見直し、その仕事を温かい目で見守ろう。その姿勢が、これからの補助犬制度の拡大のためには、必要不可欠なはずだ。(賀来潤恵)