各方面で活躍する犬たち

 身体障害者補助犬が、障害を持つ方たちにとってかけがえのない存在であることは理解して頂けたと思う。けれども、人々を支える職業犬は補助犬だけではない。ここでは、災害救助犬麻薬探知犬・セラピー犬の3種について詳しく見ていこう。
 まずは災害救助犬である。地震などの災害で、倒壊した家屋や土砂に人が埋もれてしまったときに活躍するのがこの救助犬だ。優れた嗅覚で被災者を発見し、救助するように訓練されているのである。現在の日本においては、266頭の認定犬が出動可能で、広い地域での活動を行っている。記憶に新しい中国四川省地震でも、救助犬の目覚ましい健闘が見られたという。人間の立ち入りにくい場所での捜索が、大きな成果を上げたのだ。
 同じく、犬が持つ人間の数万倍と言われる嗅覚を活かした例として、麻薬探知犬が挙げられる。主に税関に配備され、国内に麻薬を持ち込ませないために尽力している。日本では一般的に、パッシブドッグとアグレッシブドッグの2種類に分かれており、それぞれ麻薬を探知したときの反応が異なっているのだ。パッシブドッグは対象の手荷物や国際郵便から麻薬のにおいを探し出すと、その場でお座りをすることで探知したことを示す。それに対してアグレッシブドッグは、吠えたり引っかいたりして麻薬に反応するのだ。現在は全国の税関に100頭を超える麻薬探知犬が配備されており、不正薬物摘発に一役買っている。
 最後のセラピー犬は、動物介在療法に従事している犬のことを指す。治療効果がある動物たちとのふれあいにより、患者の病気治療や心身の回復、また社会復帰を促すことがその目的である。療養中の老人などの心理療法の一つとして米国で発達した後、日本にも導入されることとなった。現在は、正式な認定を受けていない犬も含め、約800頭が看護現場で活躍している。だがセラピー犬とはいえ、犬もストレスを感じることがある。癒されるだけでなく、かわいがることも忘れてはならないのだ。
 身近な犬が大きく人間社会に貢献していることはあまり知られていない。しかし、気付かないところで社会を守り、支えていることを心に留めておくべきである。普段から彼らに感謝の気持ちで接することが、人間の義務ではなかろうか。(川田速人)