温かい社会の実現へ 山本譲司氏講演会

【3日 西5―B1】
 大学祭2日目、弁論部主催による講演会、「塀の中から見た日本の社会」が行われた。講師の山本譲司氏は、かつて衆議院議員として活躍したが、秘書給与の流用が発覚。実刑判決を受けた。監獄生活を送った氏が、どのような話をしてくれるのか会場の期待も高まる。
 聴衆からの拍手に迎えられて登壇した山本氏は、「歌手ではありませんよ」と笑いを誘う。そして、快活な口調で会場の雰囲気を盛り上げた氏は、自身が見た塀の中の実態を語り始めた。「私は刑務所で、心身に何らかの障碍を持つ囚人達の世話役を任されました」。氏によると、障碍のある囚人は一般とは異なる工場で刑務を行うのだという。「そこでは、障碍者に生産性のある仕事は一切与えられません。また、精神障碍者には、大人しくさせるために薬品が投与されるなど、非人間的な扱いがされていたんです」。刑務所内の現実は、議員時代から福祉政策に携わってきた氏に衝撃を与えるものであった。
 そのような獄中での体験を活かし、現在日本の福祉制度の改善に尽力している氏は、刑務所内の問題について様々な指摘をした。例えば、罪の意識が持てない知的障碍者が収監されていることは「裁判費用の節約などのために、責任能力がない人間でも有罪にしてしまう司法の在り方に責任があります」と話す。
 また、障碍を持つ囚人の再犯率の高さも問題視している氏は「その原因は、彼らに出所後の行き場がないことです」と語る。身寄りがない場合、引き取り手となる福祉施設は限られた人数しか受け入れない。結果、社会から見捨てられた彼らの多くは、唯一の居場所である刑務所に戻る道を選んでしまうのだ。「罪を犯す障碍者達は、刑務所には自由や尊厳はないが、逆に不自由がないと言います。社会は怖いと漏らす彼らを見るのは切ないですね」。
 他にも、刑務所と福祉の間には深刻な課題が山積みとなっている。しかし、それらを早々に解決することは、犯罪率を低めるだけでなく、刑務所運営にかかるコスト削減にも繋がるという。「障碍者を世間から隔離するだけでは、根本的な解決は得られません。福祉がしっかり彼らを支えることが重要になります」。
 学生にとって刑務所は非現実的な世界だ。だが、そこで起きている問題は決して看過すべきものではない。「人口の10人に1人が障碍者だという認識をしてください」という氏の言葉を、私達は重く受け止めるなければならない。(賀来潤恵)