言葉の「謎」を求めて 文学部英米文学科 高見健一教授

  今回は、英米文学科の高見健一教授です。先生は現在、理論言語学、その中でも特に機能的構文論の研究をされています。現在の研究内容や、至ったきっかけなどをお聞きしました。(取材・構成 勝浦輝実)
 比較による研究方法との出会い
 先生が大学院生の頃、言語学に対するアプローチは、小説などの中から例文を集め、それを分類するばかりの構造言語学に基づく方法であった。ところがある時、ハーバード大学の久野翮(くのすすむ)教授の『談話の文法』という本に出会った。
「当時の勉強のやり方にはあまり関心が湧かなかったのです。しかし、久野先生の本では、良い文と悪い文の比較がされていました。丁度、医者が病人を診て健康な人の身体の状態が分かる事と同じように、言語の場合でも間違っている文を見て、言葉の規則を見つけていたのです。そのような先生の方法にすごく惹かれました」
 間違った例文から導かれること
 現在の言語学の流れは、意味や機能の側面からと、構造の側面から研究する2つの方向がある。先生は、機能的構文論という、1つの構文を統語的、意味的、機能的側面から分析する前者の方法で研究をされている。
「文の意味は、その文を構成する単語の語意からは分からない場合がありますね。その時、なぜそのような意味になるか考えると面白い規則が導き出されます」
 その規則を発見するには、正しい例文だけでは捉えられない。間違った例文も考慮し、初めて法則を見つけ出すことができるという。例えばdanceという単語の入った短文2つがある。その2つの違いを比べるとする。それにより、自動詞と他動詞の見分け方が探り当てられるのだ。
「danceは他動詞の場合、後に目的語を取り、dance a waltz.でワルツを踊ると訳されます。dance the
night away.では、danceを他動詞と捉えるとthe night awayが目的語となりますね。けれど、ずっと夜を踊ると直訳しては意味が通じません。このことからこのdanceは目的語を取らない自動詞であることが判明します。このように、色々な構文が単語を変えるだけで適格になったり誤った文になる場合があるでしょう。そこには必ず何らかの規則があるのです」
 状況に応じた文法
 言語の規則は文章の背後に隠れている。その中には、単純に説明することのできないものも多くある。状況によって変わることもあるのだ。
「高校までは、loveという状態動詞は進行形にできないと習いますね。つまりI,m loving you.のような文の時です。この恒久的状態の中では、好きという感情の度合いが変化しないので進行形では使えません。でも、I,m loving you more and
more each week.ように変化を表したい場合には進行形にしても良いんですよ。なぜなら、週を追うごとに好きな気持ちが大きくなるからです」
 既存の文法だけではもの足りない。その時々の状況に応じた表現にも重きを置く。そうすることにより、英文法の様々な性質を明らかにしていこうと試みているという。
 さらなる展望
 言語学研究は、学会誌などで仮説が発表される。そして、他の学者はその仮説が当てはまらない例と、新しい仮説を考え、発表し、証明していく。未だ証明されていない規則は無限にある。規則に、説明のできない例外は作れないのだ。
「仮説が当っていれば良いんです。それが間違っていると、お互い批判しあい、証明することが重要となります。時には、現在の概念が覆されるようなものが見つかる場合もあるのですよ。その都度、反例も含めた規則を作るために新しい例文に取り組みます。授業でも、理論を抜いた様々な例を提示し、学生達に言葉の面白さに気づいて貰えたら嬉しいです」
 研究により、言語はさらに深く発展する。先生の言語への思いは熱く、言葉の「謎解き」は今後も続くだろう。
 PROFILE
高見健一(たかみ・けんいち)
 東京都立大学文学博士号取得。ハーバード大学言語学科客員研究員、東京都立大学人文学部教授を経て05年より本学文学部教授に就任。